生きたままの人間を解剖する――戦争末期、九州大学附属病院で実際に起こった米軍捕虜に対する残虐行為に参加したのは、医学部助手の小心な青年だった。彼に人間としての良心はなかったのか? 神を持たない日本人にとっての<罪の意識><倫理>とはなにかを根源的に問いかける不朽の長編。
戦中の日本の常識と、現在と変わらぬ不安を抱えた人たちの葛藤も垣間見えて、興味深い描写がたくさん出てくる。
実際にあった事件を材にとり、しかしルポ小説のようにはなっていない。
軍との癒着、戦争末期ゆえの紊乱、実験を通してこそ医療が活かされるという倫理観…。
そして「呵責」。
どうしようもない問題に、我々はどう、立ち向かうのか。
冒頭の描写が、過去が明らかになるにつれ、印象的に思い出されてくる。
映像化もされている。