無人のY邸に、なぜ「タウトの椅子」が残されていたのか?
そして、仲睦まじそうに見えた一家は一体どこへ?
感動を超えた人間ドラマがここにある。
北からの光線が射しこむ信濃追分のY邸。建築士・青瀬稔の最高傑作である。通じぬ電話に不審を抱き、この邸宅を訪れた青瀬は衝撃を受けた。引き渡し以降、ただの一度も住まれた形跡がないのだ。消息を絶った施主吉野の痕跡を追ううちに、日本を愛したドイツ人建築家ブルーノ・タウトの存在が浮かび上がってくる。ぶつかりあう魂。ふたつの悲劇。過去からの呼び声。横山秀夫作品史上、最も美しい謎。
ミステリーだが、人は死なない(殺人事件という意味では)。
1人の建築士の思考が、自らの過去のある一点で謎と繋がっていく過程。
家族、故郷、建築。
ブルーノ・タウトの存在がここまでクローズアップされた、建築専門誌以外の初の本ではないだろうか。
巻末の「参考文献」には、建築とタウトの書籍がずらり。